3.27万人のための人事制度
— 会社を移ろうと思った、きっかけは何ですか?
池照:マスターフーズって、良くも悪くも
プライベート・カンパニーなんですね。
オーナーが中心にいて、
大胆な決断をスピード感もって実行する。
それが全世界レベルで。
だからこそ、色々挑戦させてもらえる会社でもあった。
それが、6年くらい経って
「他の会社ってどうやって人事やっているんだろう」って、
純粋に思い始めた時にお話をいただいたのが、
フォード自動車でした。
その当時で、全世界で27万人の従業員がいて、
まだ「ビック3」って言われてた時代です。
お話を聞きにいったのが、直属の上司となる方で、
その後、フォードの日本法人の社長になった方だったんです。
27万人の従業員を、
ビジネスファンクション(機能)中心にマネジメントしていますが、
その一方で人事等は、「横串を刺すような考え方」
でコンセプト中心のマネージメントもしているという
話をうかがい、とても興味をもちました。
また、人事に関しては、担当するファンクションを見ると同時に、
人事の専門テーマを、必ずどれか一つはテーマをもち、
本社の関係者と議論をする機会がある、
と言われたことにも興味がわいて。
本当に純粋な興味から、
「ぜひ、勉強したいな」って思ったんです。
— 「他社が気になってきた」のがきっかけだったんですね。
池照:そうですね。
マスターフーズは比較的人材の(健康的な意味での)
離職率もある会社で、
上司や先輩達も自ら卒業して次のステップに進むような環境でした。
私自身も、ある程度、「やりきったかな」って
いうのがあったかもしれないですけど。
— 世界のフォードに行く決断。全く違う業界ですよね。
池照:巨大企業ですよね。
けっこう色々なことが違って面白かったですよ。
やっぱりあれだけの規模なので、アメリカ本社の人事っていうと、
博士号持ったようなひとがたくさんいる訳ですよ。
「大学で教鞭をとっています」みたいな方が、
フォードの本社には山ほどいらっる。
そういう方々が、
27万人に行き渡らせるような仕組みを考えながら、
人事をやっているんですよね。
— 仕事自体はどうだったんですか?やり方とか、採用も含めて。
池照:フォードに行って、一番びっくりしたのが、
評価用のシートが枠しかないの。
— 枠ですか?
池照:本当に枠で、内容については
現場の上司と部下で話合いの上、埋めていく形です。
もちろん等級やバンドは管理されているんですけど、
現場の上司と部下で話合いの上、埋めていくんです。
「こんな緩やかでいいの」と感じたくらい違ってました。
でも、27万人の、
世界中に散らばっている多様な仕事をする人々をマネージするには、
余り細かく区分けすること自体がナンセンスなんですよ。
目標を決めて上司と話し合って、自分評価して
上司と部門とで査定するって、枠だけがが置いてあって。
— やり方も自分たちで?
池照:ただ、コンセプトとガイドラインはあります。
様々なケースに対応するために、
人事ではできる限り現場の仕事を理解し、
シミュレーションを尽くしますし。
実際の運用は、現場に任されているという感じですね。
最初は、そこに憤ったりして
何度も上司や本社の人事のメンバーとぶつかったり
質問を繰り返したりしました。
相当生意気だったとは思いますが、
周囲の方は話合いをつくし、逃げずに対応する。
本当にプロフェッショナルな、
素晴らしい方々に恵まれていたと思います。
— ここでの経験で大きかったものは、巨大組織の中でローカルの人事制度を組み立てる部分ですか?運用も含めて。
池照:そうですね。
あと、自分の担当組織の人事全般を担当しながら、
入社の時に約束のあった、人事の専門分野をもつ機会ですね。
そのテーマが、わたしの場合は
Compensation & Benefit (報酬企画)
を担当させてもらいました。
— それは自分で選んだんですか?
池照:それは、日本にとって必要だったので。
あと、プロジェクトとして報酬レベルの見直しを図る
必要のあった会社からの打診ですね。
そのプロジェクトでは、アジア全体の報酬を担当されている
「Compensation & Benefitの先生」
のような方もいらっしゃいました。
その方が日本に来てフォード全体の人事と報酬の考え方等について
レクチャーして下さったり、
私が、オーストラリアや他国に行って同じような立場の仲間と
それぞれの国の運用や課題を話あったりする機会を
いただいていました。
— そういう師のようなひとに働きながら巡り会えるって、すごいことですよね。
池照:そうですよね。
大企業ならではかもしれませんが、
社内に各分野の研究者のような方がいらっしゃり、
臆せず質問すれば、みな真摯に応えてくださる。
まだ、自動車業界がとても元気だったこともあってか、
今思えば報酬に限らず、その後に浸透する
MBO(Management by Objective)やコンピテンシー等、
評価や他様々なしくみやシステムに幅広く触れることができました。
ダイバーシティとかも、その頃初めて知った言葉でした。
— ここ数年ですよね。一般的になってきたのは。
池照:そうですね。
その頃の日本人にとっては、
「ダイバーシティ」って言葉がメール配信されて来た時に
「なんじゃそれ?」だったんですよ。
ダイバーシティについては、世界にまたがる企業だからこそ、
人材の幅広さ、また、自動車会社という職務の幅広さから
繰り出される視点が本当に新鮮でした。
— フォードは何年くらいいたんですか?
池照:2年です。
ちょうど担当していた金融部門がマツダと統合して、
勤務地が大阪に移ることになってしまいました。
新幹線通勤でという話もあったのですが、
家族もいましたし「ちょっと、それはないな」と。
それで、そのタイミングでお話をいただいていた
アディダスジャパンに行くことにしました。
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