6.制約があったから思いついた働き方
— 働き方を工夫しながら、仕事を継続したのですね。
池照:そうですね。
最後の方は部署が変わって、複数の社内プロジェクトを
常にこなす部署に異動になりました。
ここでの仕事は、本当にすべてプロジェクトベースで
進んでいくみたいな形だったんです。
今考えてみると、
それがICの仕事を考える上で良いヒントになったような気がします。
— その後、転職を決めた?
池照:はい。
以前の会社の先輩に声を掛けていただき、
日本ポールに移りました。それが2004年です。
その時も、週に4日ということで契約にしてもらっています。
— そこでも申し入れしたんですね、働き方を。
池照:そうですね。
ちょうど子供が2歳から3歳頃だったので、
子供といる時間をできるだけ増やしたいなと思って、
契約という形にしていただきました。
あと、具体的には考えていなかったんですけど、
「何か始めたいな」って思い始めていて。
その「何か」を考えるにしても、
インプットの時間があまりにもなかったんです。
「母親をやりながら仕事をする」って、
けっこう分刻みなスケジュールで、
インプットしているっていう感覚が全くないんです。
週に4日の形で、そこで働く間にいろいろ考え、
大学院に行くことを決めて、
法政大学大学院のイノベーションマネージメントで
経営学の勉強をすることにしました。
— 日中、1年コースの社会人大学院ですよね。
池照:そうです。
この話は内閣府の有識者会議に参加した時に
プレゼンで発表したのですが、
法政大学に決めたのは、明確な理由があるんです。
当時、東京の”ど真ん中”に住んでいながら、
夜の授業を取らずに修了できる社会人対象のMBA大学院、
つまり、保育園のお迎えに間に合う学校は
そこしか見つけられませんでした。
結果的には素晴らしい先生方、カリキュラムに恵まれましたが。
— 確かに、夜と土日すべて学校に費やすことになるので、厳しいですよね。
池照:そうなんですよね。
大学院に行ったのは、フォード時代の元上司が
わたしのメンターみたいな形で、時々お話を聴いてくださるのですが
彼のアドバイスがきっかけです。
「池照は人事のセンスはすごくあって、仕事もやれているんだけど、
経営の勉強をどこかでした方がいいよ」と、言われて。
「経営の勉強?」と。
確かに、いわゆる本部長クラス以上の方々について
その部門の採用から人員の配置や開発まで
一連をパートナーとしてサポートする仕事なのですが、
最終的には「経営」の話になってくる。
その時に、きちんと彼ら視点で、もしくは先を見据えながら
仕事ができることは大切かな、とは思っていました。
もうひとつ、大学院で学ぶなら
息子が保育園にいる時期の方がよいと考えていました。
小学校にあがれば、彼の活動範囲も広がり、
時間が取りづらくなることは
周囲のママ友の情報からも分かっていましたから。
そう考えたら、「今しかない!」
って飛び込みました。
主人も忙しかったので、
あまり相談もせずに試験も受けて、
「受かったし、春から大学院にいく」と伝えたら、
ちょっとびっくりしていましたが
反対もせずに、応援してくれました。
— 入ってみてどうでしたか?
池照:私が通ったコースは
通常のMBAの過程に加えて、少し特徴のあるコースでした。
ビジネスプランを自ら構築し、
その計画と実践への道筋について、
実際にキャピタリストや経営者の前で
プレゼンテーションの機会があるんです。
さらに、自ら立あげたビジネスについて、
それを修士論文のテーマにするというものです。
私には比較対象はありませんでしたが、
アカデミックよりも実際のビジネスを基軸に
授業や研究テーマが進められたため、実践的でした。
教授やアドバイザーとしてつく方々もビジネス経験がある、
または、ビジネスをしながら関わられる方が
多くいらっしゃいました。
「ビジネスを立ち上げる」
なんて考えたこともなかった私にとっては、
頭の中がひっくり返るような感覚。
そして、全然ビジネスマインドがない
自分にも出会うことができた刺激的な1年でした。
外部のアドバイザーは実際の経営者ばかり、
その方々の前で自分のビジネスについて
プレゼンテーションをするのですが、
「こんなのビジネスになっていない」って
ケチョンケチョンに言われるんですよ。
それまで会社員として評価もされ、
結構認められてるって思っていたし。
それなりに順当に役職も上がっていると感じていた私にとっては、
へこみもしますが、ものすごく新鮮でもありました。
だって普通に会社にいたら経験できないことなので。
— その時のプロジェクトが今の仕事のベースですか?
池照:ゆるくは繋がっていますけど、そのものではないですね。
ただ、人の力を強化するというところは同じです。
— 卒業後、すぐ仕事に戻ったんですか?
池照:はい。
修了後はまた組織に戻ろうと思い、就職活動を始めました。
いくつかの企業の中には、
ダイバーシティやワークライフバランスを
今後ますます社内で推し進めたいので、
私のようなワーキングマザーに推進していってほしい
というお話がありました。
— ワークライフバランスが、社会にも認知されてきた時期?
池照:そうなんです。
それで、「いいな」って思ってお話をうかがいにいくと、
実際にそこで働いているチームの人たちは
働く時間が短いわけじゃない。
むしろ従来の人事部の、
昔の私のような働き方で、長時間労働なんです。
「あ、この人たち夜10時前に帰ってないな」って
面接すればすぐ分かりますから。
でも会社としては、そういうことを進めたいから、
「子育てしながらやってください」って言われるんです。
でも、わたしは、5時にこの人たちを置いて、
「さよなら」って出来ないな~、
そこまで割り切れるメンタリティは育ってない。
どうしようかなって考えてしまいました。
— 現場は、ワークライフバランスどころじゃない?
池照:はい。
わたしは、こどもが生まれてから
守っていることがひとつだけあるんです。
それは、
「週に2回こどもと一緒に晩ごはんを食べる」ということ。
これは、今でもずっと守ってきていることで、
それができなければ仕事は辞めようと決めているんです。
あと、せっかく大学院にいって経営の勉強をさせていただいたので
できるだけ経営層に近いところで仕事をしたいと思ったんです。
やりたいのはこの2つでした。
この2つを掛け合わせた時に、
「どうしたらいいんだろう」って考えて出た結論が、
ICという働き方です。
— ここからICという働き方が選択肢に入ってきたんですね。
池照:この働き方を思いついたのは、
大学院に行っている時に、アルバイトを頼まれた経験からです。
昇級するマネージャーのアセスメント面談をする
アセッサーが足りないということで
前職の仕事を部分的に手伝ったり、
評価制度の企画に入ってほしいということで
アルバイト的に元上司や先輩の仕事を手伝ったことがありました。
いくつかこのようなスタイルでの仕事を経験した時に、
「このアルバイトの形をそのまま仕事にできないかな」って。
子育てしながら、
人事の仕事を経営に近いところでやりたいっていうことを、
この形で仕事にしてしまうっていうのはアリかなと思って、
何人かの元上司や先輩のところに相談にいきました。
そしたら、2人の先輩からそれぞれの会社で、
「それをやるんだったらうちでやってよ」、
「人、足らないからさ」って声を掛けていただきました。
それで、もう決めたら行動が早いタイプなので、
大学院にいる間に会社作って法人化しました。
— 本当に、働き方のイノベーションを形にしたんですね!!
episode7 近日公開!!
つづき